2022年8月2日

PRESS CONFERENCEシリーズ
第8回目 "Time for Ceasefire in the Russia – Ukraine War" 記者会見

Tuesday, August 2, 2022, 11:00 – 12:00 at FCCJ

登壇者
和田春樹:「憂慮する日本の歴史家の会」代表、東京大学名誉教授
羽場久美子:世界国際関係学会 アジア太平洋 会長
伊勢崎賢治:東京外国語大学 総合国際関係学研究院 教授
神保哲生(司会進行):日本ビデオニュース株式会社 代表取締役・編集主幹


「憂慮する日本の歴史家の会」代表の和田氏らが、今もなお続いているロシア・ウクライナ戦争の早急な停戦を訴えかける記者会見を行った。

「憂慮する日本の歴史家の会」は、ロシアによるウクライナへの侵攻が始まった今年2月24日以降、両国が武器を下ろし、停戦するよう訴える声明を幾度となく発表してきた。日本、そして韓国の学者や有識者などから支持を得ている同団体は、停戦に向け積極的に行動を起こすよう、中国、インド、アフリカ諸国、ASEAN諸国、さらには国際連合などにも訴えかけている。その声明文などの作成には、岩波書店の元代表取締役社長である岡本厚氏も大きく貢献したという。代表である和田氏によるこのような経緯についての説明から始まり、続いて羽場氏、そして伊勢崎氏が意見を述べた。

世界国際関係学会アジア太平洋の羽場氏は、西側諸国によるウクライナへの軍事的支援もまた、今も増え続ける市民の犠牲を生む一端を担っていると指摘。その上で、ウクライナの武装を拡大してロシアを攻撃するのではなく、両国が武器を下ろし、これ以上の犠牲を生まないことが重要であると強調した。加えて、羽場氏は東アジア地域の平和、及び戦争の防止の観点から、ロシアウクライナ戦争の停戦、そしてそれに向け日本や韓国などの国々がイニシアティブをとることの意義も訴えた。

また、アメリカをはじめとする西側諸国の支援が続く現状について、東京外語大学総合国際関係学研究院の伊勢崎氏は、これは代理戦争と言っても過言ではないとした。羽場氏もこのことについて触れ、今回の戦争の根底にはロシアだけでなく、大国としての力を増し続ける中国に対するアメリカの懸念があると説明。第三者による介入は軍事的支援の形ではなく、例えば、常任理事国の合意が得られない場合でも、国際的な平和の維持のために国際連合総会が(停戦などに向けて)行動を起こすことを可能とする、”Uniting for Peace Resolution”、通称「平和のための結集決議」の復活などが必要、と伊勢崎氏は例を挙げ説明した。

また、言論の自由について、あるいは今回のロシアウクライナ戦争に関するメディアの姿勢についても言及された。ロシア・ウクライナ戦争を代理戦争であると評した伊勢崎氏は、「アメリカはウクライナへ人員を送ることなく武器を送ることで大きな収益を得ているが、このことについて話すことも憚られる空気さえある」と苦言を呈した。同様に、羽場氏も「議論されることなく隠されている事実もあり、今回のロシア・ウクライナ戦争に対する言論の自由への圧力は、日本でも存在する」と指摘。質疑応答においては、反ロシアへの一極化の傾向がうかがえる日本のメディアも議題に挙げられた。こういった状況は、和田氏らの活動の前に立ちはだかる壁ともなっているようだ。現在、日本国内や韓国の学者や有識者の支持を獲得している「憂慮する日本の歴史家の会」であるが、重要なステークホルダーであるアメリカやヨーロッパ諸国における協力者を和田氏らは求めたものの、答えすら得られなかった場合もあったそうだ。

それでも、「命どぅ宝」、つまり命こそ宝であり、そして今この瞬間も犠牲が増え続ける中で戦争の終結を待つのは、広島や長崎、沖縄における悲劇を繰り返すことに等しく、それはだれも望んでいないはずだ、と改めて登壇者らは訴えた。また、質疑応答中には、本会見の三日後の8月5日から8日の日程における、広島平和記念式典の参列などを目的とした国連のグテーレス事務総長の訪日は、和田氏らの活動への協力・賛同を求める絶好の機会ではないか、という声もフロアの記者から上がり、今後の展望が垣間見えたところで会見は幕を閉じた。乗り越えるべき課題は多いとしつつも、今後もロシア・ウクライナ戦争における早急な停戦を訴え続けていく強い意志を明確にした会見となった。